それでも中世バグパイプを買うのはどんな人か?
今年はバグパイプで始まりバグパイプで終わる一年でした。
新春早々からバグパイプの商品ラインナップを次々に増やしていき、最後に受注生産という不完全な形にしろレッドパイプを発売したのは、我ながらよくがんばったと思ってます。
客のニーズに応じた商品をいろいろ揃えました
てみる屋にとって、”バグパイプ”という商品ジャンルの売り上げは、昨年まではゼロでした。
商品ラインナップとして中世バグパイプしかなかったので、それに心が傾かなければお客さんは何も買わずに帰ってしまっていました。
一言で「バグパイプが欲しいな」と言ってもいろいろあるでしょう。
バグパイプを欲しがるお客さんはどんな人で、どんな理由でどんなバグパイプを欲しがるだろうか。徹底的にプロファイリングして★1 タイプ分けし、そのタイプ毎にお勧めのバグパイプをいろいろ用意する――というのが今年一年かけて延々とやったことです。例えば、大して本気ではないちょっと触ってみたい人向けにビニール製の廉価なPSパイプ。バンドで演奏したいという人向けにシンセサイザのレッドパイプ。珍し物好きのキワモノ趣味としてテクノパイプ(これは本来の用途である練習用としては実に秀逸な品ですよ)。
そうやってお客さんのニーズに合った商品をいろいろ揃えた結果、”バグパイプ”という商品ジャンルは、うちの店のちょっとした柱になるまで売り上げるようになりました。
それでも中世バグパイプを買うのはどんな人か?
中世バグパイプはここ数年まったく売れません。
不良在庫と言っていいでしょう。
それでも私が見捨てないのは「中世バグパイプは買ってもらえる商品だ」と揺るぎなく信じているからですし、それよりも「中世バグパイプはてみる屋が販売するに相応しい商品」だと考えているからです。
中世バグパイプはてみる屋にとって、ある種のシンボリックな商品★2 です。バグパイプの新商品を次々と発売しながらも、私はいつもどこか中世バグパイプを意識していました。お客さんのニーズに合わせたバグパイプを次々に用意するという行為は、そのまま、中世バグパイプを欲しがる人を減算方式にプロファイリングする行為でもありました。
今や状況は正常に成りました。
今や中世バグパイプを購入する人は、ほんとうに中世バグパイプが欲しい人だけになったはずです。それはいったいどんな人か?来年始の雑務を片付け次第、プロファイリングに取りかかります。今からわくわくしています。
★1 客をプロファイリングする
『プロファイル・マーケティング』でしたか、そんなマーケティング手法があります。ある商品を欲しがるお客さんはどんな人か?性別は?年齢は?どんな学校に通ってる?どんな会社に勤めている?お友だちはどんな人?趣味は?他に興味のあることは?何て言われると嬉しい?何て言われると腹が立つ?などなど。映画の登場人物を決めるかのように詳細な人物像を作り上げて、その人がいちばん共感するだろう言葉で商品を宣伝します。
このとき、厳密にはそのお客さん以外のお客さんは、誰もその商品を買ってくれない計算になります。それでもいい。そもそも嗜好の多様化した現代において万人が欲しがる商品なんてありえない。「みなさん買ってください」と訴求して誰も買ってくれない最悪な状況よりも、「あなた買ってください」と言って買ってもらえることを良しとするという。昭和のマス・マーケティングのアンチとして現れた手法です。
★2 中世バグパイプはシンボリックな商品
中世バグパイプは私にとって、”本物のバグパイプ”の象徴です。本物とはつまり、工房で職人が手作りした、木と皮で出来た、高価なバグパイプのことです。「それでも中世バグパイプを買うのはどんな人か?」という問いを、私はもっと普遍的に「それでも本物のバグパイプを買うのはどんな人か?」という問いとして捉えています。
デカルトが「我思う、故に我在り。」と言ったのは、確かに実在する物事から演繹して、最終的に神が実在すること証明したかったのだとか。そんな大それたことではありませんが、私が今年ずっとやってきたことは、そんな類いのことです。
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