敢えてドローンを鳴らさない英断を
いったい何の話?かというとバグパイプの話です。
バグパイプはその名のとおり、革バッグに笛を取りつけた構造の楽器です。息を吹きこんでバッグを膨らませ、腕で締めつけ中の空気を絞りだして笛を鳴らします。
バグパイプの外観の異様さを際立たせているのは、他の吹奏楽器には見られない革バッグの存在もさることながら、革バッグからにょきにょき突ったっている長いドローン管たちです。バグパイプは一つの笛なのに、いくつもの音が重なって聞こえます。これは、メロディーと一緒にドローン管が併走して鳴っているからです。
当時の音楽は単純だった
ドローン管はずっと同じ音を鳴らしつづけます。そのような伴奏(ドローン伴奏)をするから ”ドローン管” という名前なのです。「同じ音ばかり鳴らしつづけるなんて、そんなで伴奏したことになるの?」と訝しむかしれませんが。バグパイプが庶民の花形楽器だった時代には、音楽の形はずいぶんと素朴で単純でした。伴奏といってもドーーーとかラーーーとか、一つの音を曲の最初から最後までずっと鳴らしつづけるだけでよかったのです。このような当時の音楽に対して、現代の音楽に慣れ親しんだ私たちは、ある種の力強さ・揺るぎなさを感じます。バグパイプのソロ演奏がときに強烈な存在感をもって聞く人に迫るのは、このドローン管の効果が大きいです。
ドローン管の音をなんとかすればいい
さて現代の音楽はご存じのとおり複雑にコード進行します。途中で転調することも当たり前です。このような曲をバグパイプで演奏しようとするとどうなるか。ドローン管がまったくじゃまになります。一つの音で鳴りつづけるドローン管は、他の伴奏楽器と絶えず衝突し不協和音を奏でます。
では現代の曲をバグパイプで演奏できないのかというと、そんなことはありません。要はドローン管の音がじゃまなのですから、分かりやすい対策としては、ドローン管の音を止めてしまえばいいです。バグパイプのアイデンティティであるドローン管を止めてしまっては、バグパイプの音はもやはバグパイプの音には聞こえませんけど。そこをなんとかおもしろく聞かせるのが、演奏者の工夫のしどころでしょう。
たとえばドローン管も鳴らした状態でバグパイプの演奏を開始して、そして他の楽器が伴奏はじめるタイミングでドローン管の音を止める。止めないまでも邪魔にならないレベルまで音量を下げる。あるいはドローン管と他の楽器が喧嘩しないように、あらかじめ曲のコード進行そのものを大きくアレンジしておくとか。
私は先の演奏動画を製作するにあたり、バグパイプのチャンター管(メロディー管)の音とドローン管の音を個別に録音し、後でミキシングしました。チェロが伴奏はじめるタイミングで、ドローン管の音量を耳障りでないレベルまで下げました。このやり方でも、作品の中ではバグパイプの音に聞こえるみたいですよ。今後も私はこのテクニックに頼るでしょう。
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