-- 楽譜置き場・試聴室(6) --

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2013年02月16日

インディアンフルートとバグパイプ-クロノクロスOP

TVゲーム『CHRONO CROSS』のオープニング『時の傷痕』を演奏しました。

曲と作品について

『時の傷痕』はゲーム・ミュージックの中でも歴代名曲の一つに数えられています。
友人からリクエストを受けていたのですが、完成するのにほとんど2年かかりました。なんというか、いくら聴いても原曲以外のアレンジが想像できなかったのです。トルコの太鼓ダラブッカがなかなか効果的に用いられていたりして、そういうのにも引きずられて迷い続けました。

今回「いける!」と判断して、ついに完成させた次第です。
2年前よりも私のパソコン音楽の知識とスキルは高くなりましたし、新しい楽器も手に入れましたし、強力なソフトウェアシンセサイザやエフェクタも集めました。そんな今だから、完成させることができたのだと考えています。

楽器について

演奏したインディアンフルートはふつうではありません。
ドレミフルートという、西洋音階ドレミファソラシドのインディアンフルートです。こうなってしまうともう、単なる木製のホイッスルなのですが。ふつうに曲を演奏できる★1 ので、このような宣伝動画を製作するのに重宝します。あるいはプロのインディアンフルート奏者も、ドレミフルートは重宝するでしょう。いくら即興演奏が真骨頂のインディアンフルートとはいえ、お客さんの期待を無視して延々と即興演奏ばかりするわけにもいきますまい。みんなが知っている映画音楽などをメドレーすれば、少しはお客さんの反応も違うはずです。

演奏したバグパイプもふつうではありません。
エレクトリック・バグパイプ、電子バグパイプという、バグパイプの形をしたシンセサイザです。スイッチオンですぐにコンサートピッチで演奏できるので重宝します。今回はMIDIケーブルでパソコンに繋いで、ソフトウェアシンセサイザを鳴らしました。3mの長さのケーブルしかなかったので、机のそばに張り付いて演奏するはめになりました。ちょっと5mケーブルを買わんといかん。

インディアンフルートの音域が足りない……

伴奏が出来上がって楽器演奏を練習する段になって、インディアンフルートの音域が足りないことに気がつきました。曲の後半に鳴らせない低い音が出てきます。それは例えばビルの設計図面を引いた後で敷地面積が足りないことに気づいたような、根本的ミスです。

仕方ないので、後半はバグパイプをメインを演奏するように変更しました。元々はこの作品はインディアンフルートをメインに考えていて、バグパイプは後半にちょっと出てくるだけ、みないな扱いだったのですが。半々て感じになりました。どうでしょうか。作品としてはかえって面白くなったかもしれません。

マスタバスに差すイコライザ

マスタバスに差すイコライザは、音楽作品の内容に関係なく、全体的な雰囲気を大きく決定します。一般的な話として生楽器演奏の録音にしろシンセの音にしろ、そのままの音だと、もわっとした生ぬるい、いかにも素人っぽい音です。マスタバスにイコライザを差して、多少なりとも低音域を下げ高音域を上げてやるのがふつうです。

私は今回はマルチバンドコンプレッサを使いました。
マルチバンドコンプレッサは、まずは単なるイコライザとして使います。慎重に低音域を下げ高音域を上げて、それで一発でいい感じになればラッキー。もうなにもする必要はありません。

そうではなくて全体としてはOKなのだが、曲の一カ所だけ高音がキンキンする、低音がモコモコするというときに、コンプレス機能を使います。スレッショルドを下げていって、高音がキンキンしたり低音がモコモコするのを抑えます。

今回は、後半の激しいパートで低音が聞くに堪えないほどモコモコしたので、大きくスレッショルドを下げて低音を抑えました★2 。一般に強くコンプレスするほどモコモコするという話ですから、今回やった調整は今後も定番として使えそうです。

★1 ふつうに曲を演奏できる
素人が息を吹き込んでも素晴らしい音色で鳴ってくれる、適当に指を動かしても曲っぽく聞こえてくれるという、まるで魔法みたいなインディアンフルートですが。唯一最大の短所?として、ふつうの曲が吹けません。(吹ける曲でも、ふつうの笛よりも苦労するのが常です。)

最近、街の楽器店でもインディアンフルートを店頭販売するようになりましたが。ご多分に漏れず、おいしい話ばかりをお客さんに売り込んでいるようで。「こういう用途には不向きですよ」ということも、隠さずきちんと説明するべきだと思うのですが。あるいは良いも悪いも分からずに、ただ珍しい新商品として売ってるのかもですが……

★2 スレッショルドを下げて低音を抑えた
ここで誤ってイコライザのゲインを操作して低音を小さくすると、今度は曲の前半が低音の足りないギスギスした音になりますよ。前半については完璧に聞こえるようにイコライザを調整していたのですから、そこから少しでもイコライザを弄れば、音がおかしくなるのは当然です。

マルチバンドコンプレッサのコンプレス機能はこのような、あっちを立てたらこっちが立たない、全体としてOKだが一カ所だけおかしい、という状況で使います。

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2013年02月13日

MIDI打込 - Ay Linda Amiga

Ay Linda Amiga(私の愛らしい友だち)というスペインの古い曲です。
今回は楽器演奏はお休みで、全部の音をMIDI打込で作りました。

短時間で一つの作品を完成させる

今回は「できるだけ短時間で一つの作品を完成させること」を課題として取り組みました。
私は好きで音楽作品を製作していますが、それは同時に商品の宣伝をするという仕事でもあります。自分の納得いくまで一つの作品に何週間・何ヶ月もかける、ということは許されません。商品を宣伝するために、できるだけたくさんの演奏動画を製作する必要があります。そのためにできるだけ素早く一つの作品を完成させるというのは、正義です。

できるだけ早く仕事を進めるコツは、できるだけ自分の手を動かさないことです。
ちょっと違うか。「自分は自分にしかできない事だけをして、他でもできる事は他にやらせる」というのが肝心です。

  • できるだけ出来合の物を流用する
  • 他人に仕事を肩代わりさせる
  • 機械やソフトウェアに仕事を肩代わりさせる

クラシック音楽や中世古楽などを作品の題材として選ぶ利点は、こういう古い曲はフリーの楽譜データやMIDIデータがたくさん出回っていて、流用し放題だということです。またYouTubeを探せば、いろんな人のいろんな解釈による演奏動画を見ることができます。慣れない楽譜をいちいち目で追いかけなくても、動画を見て聞いて素早く曲を覚えることができます。

アマチュア音楽家の味方Band-in-a-Box

今回の作品でもBand-in-a-Boxは大活躍してくれました。
アマチュア音楽家なら、Band-in-a-Boxは音楽作品を製作する上でぜひ活用したい音楽ソフトです。アマチュアの「ここが苦手」というところを手厚くサポートしてくれます。MIDIファイルやmp3ファイルを読み込んでコード進行を逆算してくれますし、指定した演奏スタイルで自動伴奏してくれます。とりあえずメロディーの音符だけ打ち込めば、それを3声でハモったり、強弱や装飾音を付けて人間っぽい演奏に加工してくれます。

最強のMIDIエフェクタJFilter

最近ことあるごとに絶賛しまくりのJFilterです。
JFilterはSONARやCakewallで使えるMIDIエフェクタ――音符データを加工するエフェクタでして、Javascriptでプログラムを書いてやれば何でもやってくれるという、夢のようなエフェクタです。私は主にBand-in-a-BoxがMIDI出力した楽器演奏を、まる人間が演奏しているように、より自然に、芸術的に加工すること――アーティキュレーションを追加することに利用しています。以前は何十分もかけて手で音符を調整していたのが、今ではボタン一発で瞬時に完了します。この効果は爽快ですらあります。

中世古楽器のソフトウェアシンセEra Medieval Legends

MIDI打込の音楽作品は、動画にすると(動きがないので)どうにも魅力に欠けます。なので資料価値を付けるために、今回はソフトウェアシンセはEra Medieval Legendsだけを使う、というしばりで製作してみました。なのでEra Medieval Legendsのデモ作品みたいな感じになりました。

Era Medieval Legendsは中世古楽器をひと揃い集めたソフトウェアシンセです。多くの楽器の音でキースイッチを用意していて、なかなか人間味のある演奏をしてくれます。パッド系の音がないなど、表現できることが限られますが、逆に「この程度しかできない」と割りきって作業を進めることができた、と思ってます。

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2013年02月08日

エレクトリック・バグパイプ『Douce Dame Jolie』

『Douce Dame Jolie(優しい美しい貴婦人)』は14世紀フランスの古い曲です。
高嶺の花に恋い焦がれる片思いの歌です。電子バグパイプで演奏しました。

電子バグパイプについて

電子バグパイプというのはつまり、バグパイプの形をしたシンセサイザです。 革バッグの中には空気の代わりに電子回路が詰まっていて、キーボードと同じようにラインケーブルを差して、アンプ・スピーカに繋いで鳴らします。「電子バグパイプ」というと、すぐに欠点として「音がショボい、作り物っぽい」ということが指摘されますが。でもその代わり、本物のバグパイプにはないたくさんの長所を持っていますよ。

  • メンテナンスフリー、スイッチオンですぐに演奏できる
  • どんな過酷な環境でもコンサートピッチで演奏できる
  • 音域が広く、半音も出せるしどんな調でも演奏できる
  • いろんな音色で演奏できる
  • ドローン管の本数やキーをいろいろ変えられる

たった一つの欠点とたくさんの長所。
これらを天秤にかけたなら、私はどうしても、本物のバグパイプより電子バグパイプに軍配を上げてしまいます。逆に「電子バグパイプの作り物っぽい音はとうてい好きになれない」という人もいるでしょう。でもですね、私がYouTubeでバグパイプ演奏の動画を見ると……上手な人は上手なのでOKなんですが、調子っぱずれの大音量で得意げに街道を闊歩する姿もあったりするわけです。そういうの無理、私には耐えられません。ピッチが外れているというのはもう、音色云々以前の問題なのです。そんなですから「作り物っぽい音に目をつぶってでも電子バグパイプを演奏しようか」という判定になってしまうわけです。

動画で私が演奏しているのは、ドイツのレッドパイプ社の電子バグパイプです。これは本物のバグパイプみたいに、息を吹きこんで革バッグを締めつけて音を出します。ちゃんと演奏しないと、本物みたいに音が止まったりよろけたりします。なかなか芸が細かい。

レッドパイプにはMIDI出力もあります。
今回はMIDIケーブルでパソコンと繋いで、VSTi(ソフトウェアシンセサイザ)のバグパイプ音源を鳴らしました。そうなんですよ、本体の音がショボいというなら、代わりに別の音源を鳴らせばいいのです!そんなふうに自由にスペックを拡張できるのも、電子バグパイプの長所です。
» レッドパイプの通販カタログ

VSTiのバグパイプ音源について

今回はVSTiのバグパイプ音源として、Soundbytes社のBAGPIPESを使いました。

他社のVSTiが本物のバグパイプを忠実に模したリアル指向の音源であるのに対して、これは昔ながらのシンセサイザです。ずらりとダイヤルの並んだ古風なコントロールパネルが懐かしいです。これも一応、本物のバグパイプをサンプリングした音を使っているのですが……他社のと比較すると、今ひとつリアルではありません。

でも私はけっこう気に入っています。シンセサイザですから、自分の納得いくまで思いどおりの音を作りこむことができます。幅広い範囲でピッチを変更できますし、ドローンの音も自由にミキシングできます。バッグを強く締めつけたときに音色はどう変化するか、ビブラートはどんな感じか、といったことも細かく調整できます。「誰も知らないどこかの国のバグパイプ?」みたいな音として使うなら、実に魅力的なVSTi音源なのです。
» Soundbytesのサイト

プログラマブルなMFXプラグイン

JFilterはMFX規格のプラグインです。

MIDIエフェクタとしてCakewalkやSONARで使えます。JFilterは変わったエフェクタで、ユーザが用意したJavascriptのプログラムに従ってMIDIデータ――つまり音符を加工します。どのように音符を加工するかは、それこそプログラム次第です。がんばってプログラムを書けば自動作曲だってできます。

とはいえ一般的な話として、大がかりな事をさせようとすればするほど、その分だけ複雑なプログラムを書かなければならない道理です。だからJFilter単体だけで見ると「なるほど、なんでもできる便利なエフェクタだということは分かった。しかし……実際に使うとなると、どうだろう」という評価になるかもしれません。やりたいことの一から十まで全部、自分でプログラミングするなら、そうでしょうね。

しかし、キースイッチ★1 を搭載したリアル音源や、Band-in-a-Boxのフィオリトゥーラ★2 と組みあわせると、小さなプログラムで大きな成果を上げることができます。私は今回、以下の目的でいくつかのプログラムを用意しました。どれも学生の課題にもならないような簡単なプログラムでしたが、作品として全体的に演奏が一段とリアルに仕上がりました。

  • 私がレッドパイプで演奏したMIDIデータの整形
  • ベースのメロディをビオラ・ダ・ガンバ用に整形
  • リコーダのメロディを人が演奏したように加工

まあこのくらいなら、数時間の手作業でもできてしまうことですよ。
しかしプログラムのいいところは、一度用意してしまえば、後は未来永劫、ボタン一発で瞬時に作業が完了してしまうということです。今後の音楽作品の製作において大幅な時間短縮になりますし、疲れもストレスもなく、製作意欲が持続させることができます。これはアマチュア――自分の作品完成に責任がなく、いつ投げだしてもいい身分である私にとって、とても大切なことです。

因みにJFilterの作者は「誰も使ってくれない……」と自分のブログで嘆いていますが。
いえいえいえ、そんなことはありません!JFilterは私にとって、既に製作活動の生命線です。これが使えないとたいへん困ります。バージョンアップを継続して、将来はぜひ64ビットWindows8にも対応してほしいところです。
» JFilterの開発元サイト-ひだちのいろの日記

★1 キースイッチ
ピアノは別格として、楽器の音域はふつう広くてもせいぜい3オクターブ程度。対してMIDIではずっとずっと広い音域を表現できますから、例えばギターのリアル音源であれば、MIDIで使う音域はほんの一部のみで、ほとんどの音域は使われないままになります。

それはもったいないので、使っていない音域の音――出そうにもギターでは出せない音域の音に、いろんな機能を割りあてることを考えます。例えばC0のキーを押しながら音を出すとカッカッとカッティング奏法する。D0のキーを押しながらだとキュィーンとチョーキングする。E0でハンマリングオンして、F0でプリングオフ。こうしておいて、これらのキーを次々に押しながらギターの音を出すと、チャカチャカキュィーンと実に多彩でリアルな演奏をしてくれるわけです。これをキースイッチといいます。

キースイッチはリアルさを売りにしているVSTi音源の多くが採用しています。
よく出来たリアル音源の音はもう、素人の耳では本物の演奏と区別がつきません。今はそういう時代です。

★2 フィオリトゥーラ
自動伴奏ソフトBand-in-a-Boxが搭載しているたくさんの機能のうちの一つで、ベタ打ちの音符をまるで人が演奏したように加工します。

同様の原始的な機能としては、昔からランダマイズというのがあります。各音符の発音のタイミングや強弱を僅かにランダムに散らせることによって、あたかも人が演奏したようにする、という機能ですが……効果のほどはどうでしょうか。人の動きって確かにふらふらしてはいますが、ランダムではありませんからね。

一方でフィオリトゥーラは、音符どうしの前後の繋がり方や、小節の中での位置、強拍と弱拍、演奏スタイルなどまで考慮するようで、本当にかなり人が演奏したように加工します。少なくとも私が自分で工夫していろいろ音符を打ち込んだよりも、よっぽど生き生きした演奏になります。それもボタン一発で。

このフィオリトゥーラと上で述べたキースイッチ搭載のリアル音源を組み合わせると、MIDI打ちこみ作品でリアルな楽器演奏を簡単に実現できます。

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2012年12月30日

インディアンフルート『エンヤ-Watermark』

インディアンフルートは北米インディアンに伝わる笛です。
インディアンフルートでエンヤの曲『Watermark』を演奏しました。
運指は動画を一旦停止しながら確認してください。

ドレミフルートはほんとうに楽ちん

この作品はドレミフルートで吹きました。
北米インディアンフルートの本来の音階は五音階なので、ふつうの曲を演奏しようとすると、かえって他の笛よりも苦労することになります。

ドレミフルートは、インディアンフルートでもふつうの曲を演奏できるようにと、音階をドレミファソラシドに改造したフルートです。ドレミファソラシドになったインディアンフルートは、もはや単なる縦笛です。英国のホイッスルと大差ありません。あまりに珍し過ぎる楽器は、360度回ってむしろありきたりになってしまうものらしいです。

っても、大ざっぱに息を吹き込んでもきれいな音色で鳴るという、インディアンフルートの特性は健在です。リコーダやオカリナなどコントロールの神経質な笛の演奏者からすると「え、こんなでこの音が出るの!?」と拍子抜けするほど簡単にきれいな音が出ます。今後は「何でもいいから笛を学びたい」という人には、ドレミフルートをお勧めします。音域が狭いのがちょっと不満ですけど。

Voice Of Passion

途中で聞こえる女性の歌は『Voice Of Passion』というソフトウェアシンセサイザの音です。

人の声を演奏するソフトウェアシンセサイザは、『初音ミク』などボーカロイドが有名ですが、これは巷のギター音源やドラム音源などと同じ、サンプリング方式の音源です。「エレーーーエスッ」「トゥリアーーリィアーー」などと歌手が歌ったフレーズを丸ごとサンプリングしてそのまま再生します。

一つの音だけ聞くとさすがにリアルですが、音と音の繋がりが悪いので、速い曲を演奏するとボロが出ます。また自由に歌詞を付けて歌わせることもできませんから、初音ミクのように前面に立ててヴォーカルを担当させることもできません。ちょうど今回の作品のように(なんか後ろで知らない歌を歌ってる……)という雰囲気を作るのに使えます。

ユニゾンの練習をしています

前作から続いてユニゾンの練習をしています。
今まで60本以上の音楽作品を製作しましたが……そういえば今までユニゾンを使ったことがありませんでした。

「ユニゾンとは一つのメロディを複数の異なる楽器で一緒に演奏すること」というのは、もちろん知ってますよ。子供の頃に学校で習いましたから。しかしこんな「リンゴは赤いです」みたいな知識は、音楽のテストでは○をもらえても、現場ではなんの役に立ちません。「そもそもユニゾンとはこういうものだ」という自分なりの得心、「こんなときにユニゾンを使うのだ」という逆引き的な知識が必要です。

今回は、ビオラ・ダ・ガンバが担当している低音パートを強化するために、コントラバスでユニゾンしました。また、ピアノの音の広がりと奥行きを強化するために、ハープシコードでユニゾンしました。ピアノのメロディーラインと低音域を強化するためにシンセブラスでユニゾンしました。

「音の性質を強化するためにユニゾンを使う」というのが、今の私の一つの理解です。
広くは「複数の楽器の音を合成することによる新しい音の創造」だと理解しています。私は子供の頃ずいぶんシンセサイザに熱をあげました。口琴など倍音楽器にも入れ込みました。いかにも私らしい解釈だと思ってます。

ユニゾンは、たくさんの楽器を使った豪華絢爛な音楽作品を製作するために必要な知識だと思ってます。きちんと言葉にできるようになったら説明します。

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2012年12月05日

インディアンフルート『エンヤ-At Moment Lost』

インディアンフルートは北米インディアンに伝わる笛です。インディアンフルートでエンヤの『At Moment Lost』を演奏しました。
運指は動画を一時停止しながら確認してください。

インディアンフルートには眼鏡の曇りどめ

インディアンフルートやリコーダ、オカリナなどの笛は、吹いているうちに息に含まれる水分が結露して、吹口に詰まります。音色が汚くなったり、最悪、鳴らなくなったりします。寒い冬は顕著で、一曲ぜんぶ吹きつづけていられないほどです。吹口が詰まるたびにブシッと強く吹いて、頻繁に水滴を吹きとばすことになります。

以前からオカリナ演奏家の間で知られているトリビアがありまして、吹口の中に眼鏡の曇りどめを吹きつけると、水滴が溜まらなくなり長く快適に演奏できるようになるそうな。口でくわえるところに曇りどめをスプレーして健康に問題ないのか、という議論はありますが。インディアンフルートの場合、水滴が詰まるのはバードと本体が接している箇所ですから、まったく関係ありません。

今回は演奏の直前に、バードと本体の隙間に曇りどめをスプレーして録音に臨みました。効果は抜群、一度も演奏を中断することなく順調に録音を終えることができました。

ドレミ音階のインディアンフルート

今回演奏したのはドレミ音階のインディアンフルートです。指穴が7つあります。ふつうのインディアンフルートでこの曲を演奏できるかどうかは不明です。音域は足りているようですが……運指が地獄かも。

もともとインディアンフルートは癖のない優しい音色です。西洋のドレミ音階にしてしまうともう、ほんとうにただの笛です。運指も英国のホイッスルと同じになりますしね。なので私は、ついついこれをホイッスルかなにかのように演奏してしまいがちです。

インディアンフルートを吹くからには「なるほどインディアンフルートだ」という演奏をしたいものです。エンヤの無国籍ミュージックを演奏していても、それでもなおインディアンフルートらしさを感じられるような演奏をしたいです。カルロス・ナカイやメアリ・ヤングブラッドなど、西洋クラシックを修めたインディアンフルート演奏家たちを改めて尊敬したのでした。

マルチバンドコンプレッサってすごい

演奏している環境にもよるのでしょうが。うちで録音した笛の音は、そのままではとても聞けた物ではありません。もわもわしてよく聞きとれないくせに、特定の音を吹いたときだけキーンという倍音が耳に刺さったりします。

耳に障る特定の周波数の音を小さくするには、ふつうはイコライザを使用しますが。今回ようなケースの場合、イコライザで倍音を小さくすると、笛の音はほんとうにもわんもわんになってしまいます。倍音は笛の音を鮮やかに聞かせるために必要です。倍音は聞こえなければなりません、ふだんは聞こえていて構いません。ただ、ときどき耳が痛くなるほど不用意に大きくなるのが問題なのです。

このような「特定の周波数の音が”ときどき”耳に障る」という症状には、マルチバンドコンプレッサが有効です。

私は今回、笛の倍音をコントロールするつもりで本気でマルチバンドコンプレッサを使ってみました。結果は満足しています。鮮明でそれでいて耳に優しい音色になりました。

マルチバンドコンプレッサは、今後もオカリナなど他の笛でも試してみます。まあ……なんだ、いつも「今回の音は今までとは違う!」って言ってる気がしますけどね。

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2012年11月22日

デュエットオカリナ『ふるさと』

デュエットオカリナは2つの音が出るオカリナです、一人で合奏ができます。
デュエットオカリナで文部省唱歌『ふるさと』を演奏しました。
運指は動画を一時停止しながら確認してください。
» カラオケ音源を用意しました、使ってください。

ここで演奏したのはウッドゥン・ボーン(WNB)工房のデュエットオカリナです。運指もそれ用です。WNBデュエットオカリナは片手だけで1オクターブ+1音を表現できます。そのへん他のデュエットオカリナと運指がかなり違いますが……慣れますよ。私はもう慣れました。

お店で新発売したWNBデュエットオカリナの試聴サンプルとして、大急ぎで演奏動画を用意しました。今までやってきたことをそのままやっただけの作品です。こんなでも完成したらそれなりに嬉しいですけど……やっぱりつまらないです。TVゲームと同じで「今度の作品ではこんな事をやってみたい!」みたいなチャレンジ要素がないと、取りかかる前から飽きてしまいます。
» WNBデュエットオカリナの通販ページはこちら

GlissEQを使ってみました

私はDAW(総合音楽ソフト)としてSONARを使っていまして、そのマスタバスに差しているイコライザをGlissEQに取り替えてみました。

GlissEQは基本はパラメトリックイコライザです。グラフの曲線のとおりに各周波数帯域を強調したり抑制したりします。

が、GlissEQは入力される音声信号によって、その掛かり具合を変化させます。例えば低音域を大きく抑えている状況で、不意に高音域で大きな音が鳴ったとします。このときGlissEQはバランスを取るために低音域の抑えを緩めて低音を大きく鳴らします。

よく似た働きをするエフェクタとしてマルチバンド・コンプレッサがありますが、GlissEQは全体のバランスを見ながら各周波数帯域の音量を調整するところが新機能です。

それで効果は?というと……どうなんでしょう。悪いとは言いませんが特に良いとも思えません。そもそもマスタバスに差すイコライザってうっすらとしか掛けませんから、私の耳では違いをよく聞きとれないのです。まあ悪くないならいいですよ、しばらく使ってみます。
» GlissEQの通販ページはこちら

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2012年10月13日

インディアンフルート『聖母マリアの七つの喜び』

1人で合奏ができるダブル・インディアンフルートです。
『聖母マリアの7つの喜び』を演奏しました。運指は動画を一旦停止しながらご確認ください。

曲について

『聖母マリアの七つの喜び』は古い歌なので、メロディーの異なるバージョンが存在します。私が初めて聞いたのはアイルランドのドネゴール郡に伝わるバージョンでした。静かで神聖な雰囲気の曲で、一発で気に入りました。しかしながら世間で知られているのはむしろ、スィング気味の脳天気な曲調のバージョンです。それを知っている人は(なんでこんな曲をインディアンフルートで吹くのだろう?)と敬遠するかもしれません……今回は非常に損な選曲をしてしまいました。

七つの喜び、ということはご明察のとおり、1番から7番まで歌があります。とはいえ笛で同じフレーズを7回もくりかえすとさすがに飽きるでしょうから、4番までしか演奏してません。

楽器について

アステカ族の末裔、ナッシュ・タベワが製作したダブル・インディアンフルートで演奏しています。

インディアンフルートは北米インディアンに伝わる笛です。ダブル・インディアンフルートはそれの改造版で、2本の笛を1本に束ねた笛です。同時に2つの音を出せるので1人で合奏ができます。石器・土器しかなかった昔のインディアンたちがこんなゴツい笛を吹いていたはずもない。ダブル・インディアンフルートは高い工業技術によってのみ製作可能な、20世紀末に生まれた新しい楽器です。

……なんて堅苦しいことを言わずに、吹いてみると意外にこれがインディアンな雰囲気なのですよ。インディアンフルートを嗜む人なら(一本は欲しいな)と憧れる楽器です。

演奏方法について

『聖母マリアの七つの喜び』の運指は演奏動画に載せています。一時停止しながらご確認ください。

左側の管は、6つの指穴ぜんぶを使います。レザーバンドは外してください。右手側の管は、下の2つの指穴しか使いません。3つあるうちのいちばん上の穴は、耳栓で塞ぎます。

動画を見てのとおり、右手で左右両側の管の指穴をいっしょに押さえる箇所があります。なので同じダブル・インディアンフルートでも、枝切りハサミのようにAの形になっているタイプでは演奏できません。

『聖母マリアの七つの喜び』の曲自体は、短くて覚えやすい易しい曲です。ふつうのインディアンフルートで吹いてもいい感じですよ。

作品について

製作途中に(なんだかヴァンゲリスみたい……)と意識した瞬間、変なスイッチが入ってしまって「ヴァンゲリスならこんな音を使うよね」「ここはこんな感じにするよね」とますますヴァンゲリスっぽくなってしまいました。

おかげで曲のインパクトを表現する新しい方法を学びました。
今までは楽器の音を大きくすることで表現していましたが、今回は楽器の数そのものを増やして表現しています。今まではドラムやピアノの音をばあんと強く鳴らしていましたが。今回は「じゃーん」「どどぉおん」と別の大きな音を追加することで表現しています。

ユニゾンも、実は今回やったのが初めてです。
思いかえしてみれば、過去に一度もユニゾンをやったことがなかったのでした。

このへんの知識は、たくさんの楽器を使ってシンフォニックな表現をするのに重要な気がします。次回作でも引きつづき研究してみます。

製作ノートは製作中に書くもの

この文章は伴奏が出来上がった段階で、ファミレスで食後のコーヒーを飲みながら書きとめたものです。今までは作品に関する説明などは、演奏動画をネットに投函した後になって考えていました。しかしそれだと気持ちはもう済んでしまった事になっているので、どうにも頭が回りませんでした。このように、製作工程の途中途中で気づいたことを書きとめておけばよかったのです。

ふつうのインディアンフルートの吹き方についてはこちら。
» ウェブサイト 『インディアンフルートの吹き方』

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2012年10月08日

イーグル・ボーン・ホイッスル『テルーの唄』

イーグル・ボーン・ホイッスルは北米インディアンに伝わる鷲の骨で出来た笛です。イーグル・ボーン・ホイッスルでジブリ映画『ゲド戦記』の曲『テルーの歌』を吹いてみました。運指も載せています。動画を一時停止しながら確認してください。

イーグル・ボーン・ホイッスルはコンサートピッチではありません。私の持っている笛はC#少し高めピッチですが、他の笛はまた違っているでしょう。伴奏はMIDI打ち込みで鳴らしていますから、どんなピッチでも問題なしですが。現実のピアノで伴奏するのはつらいと思います。微細なチューニングができる電子キーボードやギターで伴奏することをお勧めします。

録音した笛の音は聞こえにくい

笛の音は純度が高い(倍音が少ない)ので、録音すると聞こえにくくなります。スペクトラムアナライザを見ながら音量を調節すると、伴奏に埋もれて聞きとりづらくなります。よく聞こえるように調節すると、今度は聞いているうち耳が痛くなってきます。イーグル・ボーン・ホイッスルのように甲高い音の笛は、いっそう音量バランスを取りにくいです。音楽作品で笛の音をきれいに聞かせることは、私の初期の頃からの課題です。ピースの足りないパズルを完成させるような努力を延々と続けています。いろいろ分かったら別の記事で説明します。
正直、人間の声の高さに近い楽器が音量バランスを取りやすいです……

間奏に入る風の音について

間奏とエンディングに風の音が入ります。他にも尺八のような音や鐘の音などいろいろ重ねて、映画のワンシーンのような印象を表現してみました。

技術的には至極簡単でした。Forest KingdomというVSTiと使えば誰でもできます。ファンタジー系音楽を作るためのスタータキットみたいなVSTiでして、最初からこのような出来合のプリセットがたくさん用意されています。それを一つ一つ順に当てはめて鳴らしてみて、いちばんふさわしい音(風の音系)を選んだだけです。

ふつうのインディアンフルートの吹き方についてはこちら。
» ウェブサイト 『インディアンフルートの吹き方』

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2012年09月17日

インディアンフルート『モヒカン族の最後』

北米インディアンの笛で映画『The last of the Mohicans』(モヒカン族の最後)のメインテーマを演奏しました。

私は音楽家でなくてエンジニアです

私は自分のことをエンジニア(技師)だと思っています。
私は音楽家ではないし楽器の演奏家でもありません。私の仕事の内容は新商品の発掘と調査、販売企画と実施、使い方をブログで説明したりと、これは音楽家や演奏家の仕事ではないでしょう。私の体感としては、今やってることはコンピュータ会社に勤めていた頃の業務と大差ないです。これはエンジニアの仕事です。

インディアンフルートはそれを取りまく文化の影響で、スピリチュアルな感性と相性がよいです。実際、そういうお客さんが多いです。しかしながら私はその手の話ができないので、いつも申し訳ない応対をしています。あるいはインディアンフルートの縁起として伝えられるロマンチックな逸話があって、なんと絵本になってますけど。ぜんぜん興味ありません、なので読まないし話の詳細も知りません。「演奏が上手になるわけでもないのに、なんでそんなことを知りたいの?」というのが私の率直な感想です。

私の世界は物理的です。
私は楽しんで楽器を演奏しますが、楽器は音にしか興味がないし演奏にしか興味がありません。私にとって楽器はポータブルゲームマシンと同様のモノです。なるほど初音ミクのProject DIVAなど音ゲーは、パーカッションを叩くのとよく似た楽しさを味わえます。またレーシングゲームの楽しさは笛を吹く楽しさに通じるものがあります。

私は楽器を真剣に演奏しますが、心を込めて演奏はしません★ 。
そのような心のこもっていない演奏でも、こうして動画にしてみると、我ながらそこそこ聞けるではありませんか。そのことはむしろ救いだと思うのですよ。「演奏の善し悪しはすべて技術で説明できる」という立場だからこそ、どんな人でも習得しさえすれば楽器を演奏できるようになると、救いの手をさしのべることができると思うのです。

★ 心を込めて演奏しない
そもそも認知学やコミュニケーション論の立場からすると、楽器の演奏――楽器の奏でる音に心をこめることは不可能です。音に心はこもりません。だから音楽教室の講師が生徒に対して「もっと心をこめて演奏して」といった類いのアドバイスするのは、月謝をもらって食ってる身分にしては、あまりに不勉強で横着な態度だと、私は思います。

厳密には「心を込めて演奏する」ではなくて「心のこもった演奏に聞こえるように演奏する」が正しいです。確かにこちらなら、具体的なやり方さえ学べば実践可能でしょう?単なる言い回しの違いにしか聞こえない?、違いがよくわからない?、という人もいると思いますが……これらの二つは天と地ほども違います。

「心のこもった演奏に聞こえるように演奏する」は、楽器演奏の奥義の一つです。これから楽器演奏を始める初心者にぜひ理解させたい事柄です。

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2012年09月01日

民族音楽風 まど☆マギ『Salve, terrae magicae』

民族楽器の音を使って魔法少女まどか☆マギカの次回予告の曲 『Salve, terrae magicae』 をやってみました。

もともと練習用バグパイプの宣伝動画を製作していたのですが、伴奏パートだけできれいにまとまってしまったので、そのまま作品に仕上げました。

今回は私は何も楽器を演奏していません。だからこの作品で使っている音は、すべてMIDI音源――VSTi★1 の音です。それにしては笛の音などほんとうに吹いているようで、いったいどうしたら打ち込みだけでこんなリアルな音を作れるのでしょうか。その辺を踏まえて、今回使用したVSTiについて概説します。

Knagalis

シタールやバグパイプなど、ドローン音――ずっと鳴り続ける音が入る民族楽器の専門のVSTiです。アラブやエジプトなどで使われる特殊な音階を選んで使えるようになっていて、西欧音階ドレミファソラシドに乗らない違和感のあるメロディーがリアルな味付けになっています。

今回はトルコのウードを使いました。
ウード自体はドローン弦を持たない弦楽器ですが、ドローン音を応用して、特定の音が耳に残る癖の強い残響を表現しています。

Knagalisの特殊表現として、前に鳴らした音に重ねるように次の音を鳴らすと、フレットを押さえている左手をずいと滑らせるような音を出してくれます。ごくごく原始的なアーティキュレーション★2 ですが、ドローン音や特殊音階と合わさってなかなか本格的な雰囲気を醸してくれます。

D-Pro

百科事典的なVSTiです。
ピアノ、ギター、バイオリンなどポピュラーな楽器から、マウンテンダルシマーや尺八、はてはSF的宇宙サウンドまで、ありとあらゆる音を出すことができます。これ一つあれば作品をとりあえず形にできるという、重宝なVSTiです。

ピアノやギターなど、実在の楽器については生の音をサンプリングした音を使っているので、音はかなりリアルです。

何でも揃っている反面、一つ一つの音は表現力に欠けます。(音がリアルなことと表現力はまた別の話です。)説明書によると、細かくコントロールすれば高度な表現ができるらしいのですが……逆に言うとそのためには細かくコントロールしなければならないわけで、それは面倒というか。それは機械のすることで人間の仕事じゃないよね?というのが私の感覚です。

今回はブズーキの音を使いました。
ほんとうはトルコのサズを使いたかったのですが、聞いてみると本物と似ても似つかない貧相な音だったので、ブズーキで代用しました。ちなみにブズーキは複弦の4コースです。ギターは単弦の6コースですから、MIDIファイルのギターパートをそのまま使うと、なんだかギターみたいに聞こえます。ですからギターパートから2つの音を削除してブズーキを鳴らしました。音数の少ない弦楽器の音は、いかにもシルクロードっぽい雰囲気です。

ForestKingdom

ファンタジーな世界観にぴったりな楽器ばかりを集めた趣味性の高いVSTiです。
私にとっては「ああこれこれ!」という、なかなか的を射た楽器のラインナップでして、上のD-Proの次に使用頻度の高いVSTiです。

今回はウドゥドラム、木の実のガラガラ、ジングルスティックとブルガリアン・ドゥドゥク(ブルガリアのリコーダ)を使いました。

ブルガリアン・ドゥドゥクはずいぶん気合いが入っていて、アーティキュレーションを不使用のキーに割り当てています。写真の黄色い鍵盤がそれです。民族楽器の笛の音域はせいぜい2オクターブですから、これをピアノの鍵盤に当てはめたら、ほんの一部の鍵盤しか使用しません。そこで、余った鍵盤にアーティキレーションを割り当てるということをしています。たとえば低いドの鍵盤を押さえながら笛を鳴らすとぴょろぴょろ~と装飾音を入れます。低いレの鍵盤を押さえながら鳴らすとひょえ~と音をずり上げます。音の長さとベロシティ★3 、そしてアーティキュレーションで表情をつけると、まるでほんとうに笛を吹いているように聞こえます。

★1 VSTi
”VST規格の楽器”という意味で、早い話、パソコンにインストールして鳴らすソフトウェアのシンセサイザーのことです。MIDIキーボードをパソコンに繋いで、ふつうのシンセサイザーのように演奏することもできますが、それよりもSONARやProToolsといった音楽ソフトに組み込んで演奏するのが主な使い方です。おおざっぱに説明すると、音楽ソフトにピアノのVSTiを組み込めば、音符を打ち込んでピアノの音で自動演奏することができます。ギターのVSTiを組み込めば、ギターの音がします。

数万円もする製品からフリーウェアまで、けっこうな数のVSTiが存在します。フリーウェアのVSTiでも、すごい掘り出し物があったりします。ネットで探してみるといいです。

★2 アーティキュレーション
楽器を演奏するときの強弱、抑揚、表情、感情表現、といった意味です。上手にアーティキュレーションした演奏は、人間的で生き生きとしていて躍動感を感じます。反対にアーティキュレーションを欠いた演奏は、のっぺりとした面白みのないロボットのような演奏になります。なんとなく分かりますか?アーティキュレーションの善し悪しは、そのまま演奏の善し悪しに直結します。初心者の拙い演奏とプロの素晴らしい演奏の差は、そのままアーティキュレーションの差と言っていいです。

ちなみに西洋音楽の楽譜にはアーティキュレーションを記録できません。「とりあえず楽譜どおりに間違えず演奏できるようになりました」という初心者の演奏が聞くに堪えないのは、まさにここです。楽譜には音の高さと長さしか書かれていません。アーティキュレーションの説明はないので、どんなに楽譜どおりに演奏したところでぜんぜん足りないのです。なんだかロボットのような演奏になってしまうわけです。

プロも楽譜を見たところでそこの状況は初心者と同じですが。プロは自力でアーティキュレーションを加味することができます。音の高さと長さしかないぶっきらぼうなメロディーに、息継ぎやタンギング、音の強弱、装飾音など、ぜんぶの演奏技術を総動員してアーティキュレーションを付け加えます。

初心者丸出しの演奏から”ちょっと聞けるいい感じ”な演奏にランクアップするには、アーティキュレーションを意識した演奏ができるようにならなければなりません。っても今まで述べてきたように、なんとも漠然とした話です。音楽教室で先生に「もっとアーティキュレーションに気をつけて!」と注意されたことがあるかもしれません。これは「もっと上手に演奏して!」と注意しているようなもので、どうしたら上手に演奏したことになるのか分からない以上、意味のないアドバイスであります。

★3 ベロシティ
物理学では『速度』のこと、パソコン音楽では『勢い』『強弱』といった意味です。MIDI信号にベロシティという数値があって、大きな値のベロシティで音を鳴らすと強い音がします。小さな値のベロシティで音を鳴らすと弱い音がします。

強い音と弱い音、というのはそのままイコール大きい音と小さい音、ということではありません。ってもまあ強い音というのはだいたい大きな音ですし、小さな音は弱々しく聞こえますけど。実際、フリーウェアの手抜きのVSTiだと、ベロシティの大小に従ってそのまま音を大きく鳴らしたり小さく鳴らしたりするだけのことが多いです。(そもそもベロシティなぞガン無視でいつも同じ大きさの音で鳴らす、という割り切ったVSTiもあります。)

対して、高価な製品版のVSTiだと、たとえばピアノの音は、ベロシティが小さいと曇った小さな音がして、ベロシティが大きいとガツガツと鍵盤を叩く雑音を伴ったヒステリックな轟音がします。強い音と弱い音というのは、そいういう意味です。

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